あなた疲れてるのよ

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大塚初重 (梯久美子「昭和二十年夏、僕は兵士だった」より)

―暗い海を漂流しているときに、わたしが思ったのは、自分が今まで受けてきた教育は何だったのだろう、ということでした。
わたしたちは、神武天皇とか、天照大神とかの神話で始まる日本の建国の歴史を習ってきました。小学校の教室の黒板の上には、一二四代にわたる天皇の名前を書いた紙が貼ってあった。授業が始まる前に起立して、先生と一緒に「神武・綏靖・安寧……」と、声に出して暗唱するんです。
小学校三年生くらいで、みんなが一二四代すべての天皇を暗記していた。たぶん全国どこの小学校でもそうだったはずです。
神話にもとづく日本の歴史を、旧制中学校を出るまでずっと教えられ、神国日本は不滅であると信じていました。批判力のない子供は、そう思っていた者が多かったのではないでしょうか。わたしもそうでした。日本は負けない、と信じていた。
けれども目の前の現実はどうでしょう。
十何人かがつかまった小さな四斗樽。大きな波が来ると樽がぐるっと回転する。波が去ると、人影はもう数人になっています。
仲間がどんどん死んでいくのを見て、わたしは、戦争とはこういうものかと思いました。そして、日本はもう危ない、駄目かもしれないと思ったんです。
東京大空襲で、大勢の民間人の無惨に焼けこげた死体を片づけたときからずっと心のどこかにあった思いが、東シナ海の暗くて冷たい海を漂いながら、どんどん強くなっていきました。
そのときわたしはこんなふうに考えたんです。もし生き延びて、ふたたび日本の土を踏めることがあったら―この後も人生というものがわたしにあるなら―もう一度、歴史を勉強しなおそうと。
日本は神国であるとか、神風が吹くとか、そういうことではなくて、もっと科学的な目で見た歴史を学びたいと思いました。そして、子供たちに、間違いのない正しい歴史を教える教師になりたい。これからの子供たちには、自分のような目にあわせないぞと決心したんです。

Posted on Tuesday, July 5 2011.
あなた疲れてるのよ どこで拾ったのかわからない画像を貼ったりリブログしたりしなかったり。
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